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一冊の本との出会い


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英文学を学んでいた大学3年生の春、卒論のテーマ選びのためにかよっていた図書館で私はある一冊の本と出会いました。井村君江先生著『妖精学入門』です。「妖精学」という聞き慣れない言葉に妙に惹きつけられ、その晩私は夢中になって本のページをめくりました。そして、それまでは単なる架空のキャラクター的存在だと思っていた妖精が、数千年も昔のケルトの信仰から生まれたこと、妖精のイメージ化にシェイクスピアが大きく寄与したこと、そして今なお多くの西洋の文学の中で息づいていることなどに驚きつつ、目から鱗が落ちる思いですべてのページを読み終えたことを覚えています。

以降、すっかり妖精文学のとりこになった私は、イギリスの幻想文学やケルトについての勉強を始めたのですが、その過程でさらなる大きな出会いを果たします。それがアイルランド、ギリシア、イギリスにルーツを持つ小泉八雲ことラフカディオ・ハーンです。コスモポリタンな感覚で作家活動を繰り広げたハーンが、日本の妖怪や幽霊を素材に西洋的な感性で仕上げた異色の作品群は、クロスボーダーな研究が求められる現代の文学研究にとって格好の材料であることを実感し、強く惹きつけられました。

そして、ハーンの怪談を読んでいくうちに、子ども時代にこれらの物語を家族や学校の先生から聞かされていた記憶が徐々によみがえってきました。それもそのはず、彼は私の生まれ育った静岡県焼津市と深いゆかりのある作家だったのです。ハーンは明治の日本に来日し、英語、英文学教師として教鞭をとる傍ら、日本を西洋へ紹介する著作を精力的に発表した人です。焼津はそんなハーンが晩年避暑地として愛した地なのです。

大学卒業後、文学研究への淡い憧れを胸に抱きつつ民間企業に就職し3年ほどたった頃、焼津市に焼津小泉八雲記念館がオープンしました。学芸員の公募を行っていたこの文学館に私は迷わず志願し、幸運にも、学芸員として展示会や資料の調査に携われることになったのです。また、この転職により、かねてから希望していた文学研究の扉も開くことができました

今年の3月、私は14年間務めた記念館を去り、研究を深め、教育に寄与したいという思いでこの常葉大学に来ました。今後は、文学の研究に加え、ハーンのような静岡の文化資源を地域の観光や発展に活かしていく取り組みにも積極的に関わっていきたいと考えています。

人生には誰しも大きな転機をもたらす出会いがあります。それは、本であったり、人であったり様々です。学生のみなさんには日々の生活の中で起こる出会いを大切にしてもらいたいと強く感じます。そこからきっと様々な縁が紡がれていくはずです。

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