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巻頭言


2023年度巻頭言 (第10回大会)
大会パンフレットより転載
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re-「再び」cite「呼び出す」ことへの挑戦
常葉大学 外国語学部長
増井 実子


 2014年に始まった「常葉大学多言語レシテーション大会」は、今年で10回目を迎えます。グローバルコミュニケーション学科で学ぶことのできる四言語(中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語)の学習成果を披露する場として始まった大会でした。その後、静岡県内で四言語を学んでいる高校生へも門戸を開き、同じステージで高校生と大学生が競い合う現在のような形式の大会に成長しました。今年は毎年参加してくださる常連校に加え、初出場の高校がいくつかあり、多様な言語の学習に関心を持つ高校生が増えていることを嬉しく思っています。

 「レシテーション=recitation」は、動詞reciteが名詞化した言葉であり、ラテン語が語源です。re-「再び」cite「呼び出す」、つまり、書かれた文字を読み上げることで、その文章が表現している世界をその場に再現することを意味します。課題文を深く理解し、声、表情、ジェスチャーなど自分の身体を駆使して、今日この場でその世界をうまくreciteできた人に栄冠は輝きます。出場者の皆さんは、いったん舞台の上に上がったら、どうか悔いのないように演じ切ってください。

 最後になりますが、大会開催に当たってご協力くださった関係の皆様に、心よりお礼を申し上げます。


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AI時代に暗唱する意義
常葉大学 外国語学部グローバルコミュニケーション学科長
谷 誠司


本年度も「多言語レシテーション大会」を開催することができ、本当に嬉しく思っております。特に今回は10回目の開催になります。これまで参加をしてくれた出場者、引率者の高校の先生方、聴衆として参加してくださった皆様、そして歴代の実行委員の学生には心から御礼申し上げます。

 月刊誌『中央公論』の2023(令和5)年7月号に、少数民族の「ムラブリ語」を研究する伊藤雄馬氏と、25以上の言語に精通するノンフィクション作家である高野秀行氏による興味深い対談が、掲載されていました*。

 この対談では、「どの言語にも発音の音韻的特徴や文法的特徴があるだけでなく、言語ごとに独自のノリがある。このノリがないと、そのコミュニティーに適応できない」と述べられています。例えば、日本語における「すみません」や「どうも」も、このノリの一つです。外国人がこれを交互に使えば、日本語が上手に聞こえるでしょうし、日本人にも受け入れられやすいでしょう。しかし、このノリが欠如していると、コミュニティーに溶け込むことが難しいと指摘されています。最後に、高野氏は言語には「情報伝達のための言語」と「親しくなるための言語」という二つの側面があり、AIで代替できるのは情報を伝えるための言語であり、親しくなるための言語には情報伝達は必要ないと述べています。

 外国語の詩や戯曲を暗唱する大会。AI時代においては意味がないと考える人もいるでしょう。確かに言語を情報伝達の機能だけで見れば、もっともな考えです。しかし、外国語の詩や戯曲を暗唱することは、その言語が持つリズムや響き、さらには文化的な背景を自身の体験として取り入れ、言語のノリを身につける過程でもあります。

 一見無駄に思えるかもしれませんが、これらの努力は皆さんの中で育まれ、成長します。日々の努力の成果を惜しまず発揮してください。そして、聴衆の皆様、どうか大会をお楽しみいただき、出場者たちに心からの拍手を送っていただければ幸いです。

* 高野秀行、伊藤雄馬「対談 「親しくなるための言語」はITでまかなえない 辺境で見つけた本物の語学力」、『中央公論』2023年7月号、pp.92-101。

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