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ドイツ連邦政府はなぜ「昆虫保護行動計画」を策定したのか


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昆虫保護行動計画 日本語版

ドイツ連邦政府は2019年、「昆虫保護行動計画」を策定しました。日本ではほとんど報道されることのなかったニュースですが、自然環境保全についての理解を広げるために尽力してきた私たちにとっては大きな話題となりました。日本ビオトープ管理士会と(公財)日本生態系協会は、ドイツ連邦政府が発行した「昆虫保護行動計画」の冊子を取り寄せ、日本語版を作成すると共に、この法律が意味することを広く知ってもらう活動に着手しました。
なぜ今、昆虫保護が議論されているのでしょうか。
そのきっかけのひとつは、21世紀に入ってすぐ世界中で話題になった養蜂業におけるミツバチの蜂群崩壊症候群(CCD)だったと考えられます。アメリカ合衆国の広い地域において、農作物の受粉用に育成しているミツバチが、巣箱を出たあと帰ってこなくなるという事件が発生し、100種類を超える作物がその影響を受けたと報告されています。感染症が疑われていますが、いくつかの環境要因による複合的な現象ではないかとの推測もあります。同様の事件が世界の各地で発生し各国政府は対応に追われました。EUではネオニコチノイド系農薬の使用制限を試みています。アメリカ合衆国やオーストラリア、そして日本(農水省)でも詳細な調査や対策が進められています。この事件は、作物の生産量と直結する養蜂の現場で起きた事件であったために注目されましたが、野生の昆虫の世界でも同様の急激な個体数減少が知られています。2020年5月号の「ナショナルジオグラフィック日本版」では、「昆虫たちはどこに消えた?」という特集記事が組まれ、世界的な昆虫減少の状況が報告されています。
昆虫の減少はそれほど重大な事件なのでしょうか。
近年、生物多様性が人間社会に与えてくれる恩恵を指す言葉として、「生態系サービス」という用語が使われるようになりました。昆虫によるサービスとしては「送粉」という機能があげられます。花粉の媒介のことです。実をつける植物の多くが昆虫などの野生生物のはたらきで実を実らせます。食用の作物ではトマトやリンゴなどが野生生物の送粉に頼っています。CCDなど送粉昆虫の減少は食糧生産に直接影響を及ぼすのです。
昆虫は同じ昆虫も含めた野生生物の食物としても極めて重要です。鳥類、両生類、爬虫類の多くは昆虫食です。哺乳類でも、ネズミ、コウモリなど昆虫に強く依存する生物グループがいます。そのため、昆虫の個体数の減少によって生態系全体が影響を受けることになります。
地球環境は様々な野生生物の相互依存によって成り立っています。種の絶滅は、同様の役割をもつ別の種によって補充され、すぐにその影響が現れない場合もあります。しかし、同様の役割をもつ種が少なくなったり、そもそもその役割が少数の種によって支えられている場合、種の絶滅は生態系の相互依存関係に重大な欠落を生じさせます。私たちが、種の絶滅に注目するのはそのためです。
国連は野生生物の種の絶滅を阻止するために「生物多様性条約」を作り、その具体的な行動計画として「愛知目標」を定めました。「愛知目標」の目標年は2020年です。国連よりその評価が公表されていますが、20項目のうち達成できた目標はゼロでした。
新型コルナウィルス感染症の拡大を受けて、国連は「ワンヘルス」というキーワードを提唱しています。野生生物の絶滅が続く状況(不健康な環境)では、人の健康も脅かされる、と考えることができます。環境が健康かどうか、最も身近な野生生物である「昆虫」に注目することは意義のあることです。

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