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トラウマインフォームド・ケア(アプローチ)


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私は長らく児童福祉における心理臨床の分野で仕事をしてきました。最近では、子ども虐待という言葉が社会の耳目を集めるようになっています。社会が成熟することによって、ようやく大人だけでなく子どもの人権への配慮がデフォルトになるべき、という考え方が広まってきた結果といえます。
世界の中でも虐待対応の早かった英国では、虐待事態の認識→被害を受けている子どもの安全確保→どの子も安全に健やかに生活できることの保証、というように社会の掲げる目標が変遷しています。これはユニバーサルデザインの考え方とも類似していますが、日頃見聞する我が国の実情は、虐待の分野ではまだまだ道遠しという感は拭えません。
子ども虐待への支援はトップダウンとボトムアップの組み合わせが重要といわれています。トップダウンは言葉を用いて論理的思考能力に働きかけ、トラウマにまつわる怒りや不安を喚起する記憶の整理、感情や行動の調節を狙います。ボトムアップは身体の緊張を和らげる(迷走神経系と脳幹の連携を促進する)ことによって、内臓感覚を含む身体感覚と感情の繋がり強化や調節を狙います。これに加えて、被虐待というトラウマに関する知識の眼鏡をかけて大人、子どもの行動を捉えること(トラウマインフォームド)が強調されています。トラウマを受けると人は自律神経系が混乱し、症状・行動が現れます。それへの手当てがなされないと、かつてトラウマを引き起こした人物や状況とは全く異なるけれど、その場面を想起させるような相手や状況に対して、あたかも再度トラウマを受けているかような反応(パニック、攻撃等)が引き起こされることがあります。ですから、これまでの極一般的な指導の仕方(忘れ物をした子に語気強く注意喚起する等)が、トラウマ(暴力によるしつけ等)を受けてきた子ども(通常指導する側にはそのような情報をもっていない)にとっては再トラウマ体験になりうる、と理解していることがトラウマインフォームド・ケア(アプローチ)の基本になります。そして支援の対象は、被害を受けた人、支援する人、支援組織という三者であることも重要になります。
このような分野において、心理学が貢献できることを少しでも伝えていきたいと考えています。

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