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Vol.22


外出自粛中においてゲーム依存に陥らないためにできること

 新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により、日本国内で国や自治体から「外出の自粛」が求められている状況が続いています。それに伴い、自宅にてスマホやゲーム機器に触れることができる機会が増大し、軽い気持ちでビデオゲーム(以下、ゲーム)をやり過ぎてしまう・・ということが起こりがちです。ただ、それも度を過ぎると「依存症」と呼ばれる病気になってしまう危険性をはらむことが近年分かってきています。依存症とは、薬物依存、アルコール依存、ギャンブル依存などが良く知られていますように、社会的にも大きな影響を与える怖い病気です。では、過度なゲームでの遊びで、なぜ依存症に陥ってしまうのでしょうか?ゲーム依存に陥らないために、できることは何でしょうか?今回、これらの疑問を考えるきっかけについて、脳の活動を調節する「神経伝達物質」の研究をしている熊田と精神科のリハビリテーションで依存症の現場を知る吉田が情報提供いたします。


ゲーム依存症とは?

 脳機能を画像化して測定する脳機能イメージング法の発展に伴い、一定時間のビデオゲームは脳機能を活性化する作用もあり、リハビリテーションや介護への応用なども考えられています。しかしながら、過度(長期間・長時間)にビデオゲームにのめり込んでしまうと、著しい集中力やモチベーションの低下、不安の増大など様々な精神疾患で認められる症状が見られるようになります。世界的にこのような症状を持つ方が劇的に増加したことから、世界保健機関(WHO)も2018年に正式に「ゲーム依存」という精神疾患を新たに認定しました。
 WHOでは、次の3つの条件が12ヶ月以上続くことを「ゲーム依存」と定義し、その後の治療の必要性を示唆しています:①ゲームを使用する時間や頻度を自分でコントロールできない、②ゲームを他の何よりも最優先にしてしまう、③問題が生じているにも関わらずやめることができない。このレベルまで達すると、個人の健康ばかりでなく社会的にも大きな影響が出てきます。


ゲーム依存症による脳内の変化は?

 何か報酬を得たり、失ったりすることによる気持ちの変化やモチベーションの向上には脳内の「ドーパミン」と呼ばれる神経伝達物質が関与します。ゲームなどの行為(刺激)は、このドーパミンが関わる神経回路の活動を高めることで、「報酬を得た」という満足感が得られます。一方、この刺激が強すぎたり、長時間続くと、脳内でドーパミン回路に変化が生じ、その刺激では満足できなくなるばかりでなく、心身にとって悪い影響を及ぼすことが、様々な依存症の研究から明らかになっています。近年の脳神経科学の研究から、ゲーム依存の患者さんにおいても、脳の線条体と呼ばれる部位を中心にドーパミンの作用が変化し、集中力に関わる大脳皮質の前頭前野の活動が抑えられることが分かってきました。
 この依存症の怖いところは、一度はまり込んだら抜け出すのが、とても難しくなるという性質(常習性)を持つことです。薬物依存に陥った芸能人らも、やめられずに繰り返し逮捕されるという報道もあります。これは、依存症になる過程で、刺激により脳内の神経回路自体に変化をきたしてしまう為に起こるとされています。実際に、ゲーム依存によりドーパミン回路が不安や恐怖などの感情を生み出す扁桃体や突発的な行動に関与する背側の線条体と密接な神経回路を作り出すことが報告されています。そこで、自粛中にゲームで遊んでいるみなさんも、このような脳内の変化が生じる(依存症になる)ことがないように、考えて欲しいと思います。


ゲーム依存に陥らないためにできること

 自らゲームから少しずつ距離を置くということは勿論有効ですが、「キャラクターがどんどん強くなっていく」、「レアなコーデを手に入れたい」、「対戦相手に負けたくない」などの思いで、ゲームに魅了された人たちにとっては難しいことでしょう。作業療法の立場からいくつか提言をいたします。周囲の人が見かねてゲームを取り上げるということは、一見良さそうに見えますが、逆効果になることが多く避けるべきです。現実的な方法は「ゲームも含めた生活を整える」ことでしょうか。臨床的にも患者さんの「生活を整える」ための介入が有効でよく行われています。まずは、自分自身で「ゲームの時間」、「勉強の時間」などの具体的な時間を定めて日々の計画を組み立ててみましょう。もちろん、22時以降は就寝する等、睡眠時間を確保することも大切です。その際、眠る直前にモニターの明るい光を見ると、脳が昼と勘違いして寝付きが悪くなってしまうことに注意してください。計画を立てたら、その計画を意識しながら実行し続けてください。次第に、その習慣が、脳の回路の中で定着していきます。もし計画通りにいかなかったときは「なぜ守れなかったのか」を周りの人と一緒に考えてみましょう。そして、守れたときは自分を褒めてあげましょう。みなさんも一度、生活リズムを見直してみませんか。
執筆者 熊田竜郎
保健医療学部作業療法学科 教授
(専門は生理学)

執筆者 吉田裕紀
保健医療学部作業療法学科 助教
(専門は精神障害作業療法)

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