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Vol.19


新型コロナウイルス感染と神経疾患

 今日、新型コロナウイルスの感染は大きな社会問題になり、感染は広がっています。そこで私は脳神経内科の医師として新型コロナウイルスについて考えてみたいと思います。

 まず基本的なことですが、感染症には2つの要因が関与していると言われます。第一は感染を起こす病原体(ウイルスや細菌、寄生虫など)の特徴を理解すること、第二は感染を受けるヒトの健康状態(宿主の抵抗力、免疫力)です。新型コロナウイルスの怖いところは病原体であるウイルスの特徴がわからないことであり、過去に起こった細菌感染症の赤痢や腸チフスのように充分に分析されている病気とは異なることです。つまり、「知らないものは恐ろしい」というわけです。しかし、徐々にその特徴は明らかになってきています。「どのくらいの量のウイルスが体に入るとヒトに感染を起こすのか」はウイルスの持つ感染力として調べる必要があります。例えば、感染力が強い細菌では少ない数の細菌でもヒトに感染することができます。このような病原体に関する情報が増えることにより、感染予防がより正確に行われるようになります。現在、3つの「密」を避けるのは、周囲のウイルス量を減らすためと考えられますね。

 それではヒトの神経系の病気の中で病原体の性質がわからないものについて少し考えてみます。その例はプリオンと呼ばれるタンパク質が病気の原因になるプリオン病、別名、クロイツェフェルト・ヤコプ病です。通常のプリオンタンパク質は問題ありませんが、特殊な構造の変異体「異型プリオン」タンパク質は、伝播と呼ばれる『細胞間での感染症』を起こすのです。このため、この病気は異型プリオンのある硬膜を移植する手術を受けた患者さんに発病することがわかりました。このように中枢神経系でも感染症は起こり、原因や発病機序が明らかではない感染症は存在します。最近では認知症を起こすアルツハイマー病のような神経変性疾患においても同じような「伝播」が起こるのではないかという意見があります。少なくない神経変性疾患でも病原体のように振る舞う異型タンパク質による伝播説が主流になりつつあります。世界中の医師研究者がこの問題に取り組んで治療法を研究しています。

 プリオン病では感染源や感染経路は限られていますから、新型コロナウイルス肺炎の場合とは簡単には比較はできません。しかし、病気の原因や病原体の性質を解明することにより、治療への道は開かれていることは同じです。まだ新型コロナウイルスによる肺炎では不明な点が多いですが、プリオン病の場合には患者さんの病気を正確に知る方法、例えば中枢神経の病理解剖は必要です。多くの脳の病気の性質は顕微鏡で観察して見ないとわからないからです。我々は1日も早く新型コロナウイルスの性質を突き止めることを希望します。そして、我々は様々な視点から神経疾患を調べて治療法を探索したいと思います。

図はイメージです
(Omni MatryxによるPixabayからの画像)

執筆者  矢澤 生
保健医療学部 作業療法学科 教授
(専門は神経内科学)

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