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Vol.15


「わかっているけどやめられない」ネット・ゲーム依存の予防

STAYHOMEのプラスマイナス

新型コロナウィルス感染予防のためのSTAYHOMEによってもたらされた時間をどのように過ごされたでしょうか?普段できなかった片付けや家族で一緒に食事をしたり、おやつをつくるなど、「おうち時間」を有意義に過ごされた方もいらっしゃるでしょう。一方で、在宅時間を持て余し、スマホでのSNS・ゲームの時間が倍増してしまい昼夜逆転、長時間利用など学校再開に向けての様々な弊害が出ています。
私は小学生を対象とした「情報モラル講座」を開催しています。小学生の保護者アンケートでは家庭での困りごととして「ゲームの時間が守れない」ことが挙げられており、小学生自身も「ゲームのやりすぎ」を自覚しています。厚生労働省が示す「新しい生活様式」では、これまでの対面コミュニケーションに代わり、ICTが生活の中心となり新たなコミュニケーションスキルが求められます。それに伴い、ICT教育もさらに進んでいくことでしょう。一方、ネットやゲームの使いすぎによる弊害は成長期にある児童生徒、そして大学生にも大きな影響を与えます。

使いすぎによる健康被害と予防

世界保健機関(WHO)は2019年に、ICD-111)を承認し(発行は2022年から)、ゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を疾患と定義しています。また、アメリカ精神医学会によるDSM-52)でも、「インターネットゲーム障害」を今後の研究の病態のひとつとして示しています。健康被害では、スマホの画面を長時間見ることによるブルーライトの影響による睡眠不足や急性内斜視、ストレートネックなど、児童生徒の成長に大きく影響する症例も報告されています。「やめよう、やりすぎだ」と自覚しているにもかかわらず、ゲームやネットが生活の最優先事項になり、本来やるべきことができなくなってしまいコントロールできなくなってしまうことがこの病の深刻さでもあります。
静岡県は2019年に県内の中学1年生と高校1年生の1997人を対象にネット依存スクリーニングテストを実施し841人(42.1%)にネット依存傾向があると公表しています。緊急事態宣言による休校によって、この傾向はさらに増加しており、重大な問題として捉える必要があるでしょう。
日本発のインターネット依存症治療部門を開設した久里浜医療センターでは、ネット依存スクリーニングテストを無料公開しています。また、ゲーム依存については、IGDT-10が公開されています。セルフチェックにご活用していただければと思います。

SNSの犯罪被害

警察白書(2019)によれば、近年はSNSを介した被害が増加しており、過去10年で2倍以上となっています。2019年に発生した大阪市小6の女児が行方不明となった事件では、SNSを通じて知り合った栃木県の男性が、女児を公園に呼び出し、その後、自宅に連れ去り監禁しました。のちに女児は男性宅から逃げ出し、無事保護されました。こうした背景のひとつに小学生が自由に個人で使えるスマートフォンの所有と簡単に登録できるSNSの手軽さが考えられます。警察官の問いに女児は「いきなりメッセージがきた」と答えているように、SNSでは、全く知らない誰かと簡単に繋がることが可能なのです。最新の小学生のスマートフォンの利用率は45.9%(内閣府,2019)であり、この傾向は今後も上昇していくでしょう。「SNSに起因して犯罪被害に遭った児童の約9割がフィルタリングを利用していなかった」(警察庁,2019)ことも報告されています。さらに、児童ポルノ事犯の検挙件数、被害児童数も年々増加傾向にあり、なかでも自撮りによる裸の動画や写真を安易に送ってしまったことによる性被害が発生しています。
また、匿名性ゆえのネット上の誹謗中傷やネットいじめの問題も深刻です。いじめ防止対策推進法(2013)では、インターネットを通じて行われる行為もいじめとして定義しています。文部科学省(2019)の調査ではネットいじめの認知件数は、過去最高となる16334件となっており、自殺に追い込まれるケースも多発しています。こうした被害を無くしていくためにも、家庭と学校、地域が連携して命を守るための予防対策が急務です。

連携・協働して子どもを守る+スキルを身に付ける

ネットやゲームに依存傾向のある児童生徒をどう援助していくのか、重篤なケースは専門家を頼る必要があるでしょう。そうならないためにも、家庭や学校の責任を一方的に問うのではなく、家庭、学校、地域、関係機関と連携・協働してサポートしていく体制を構築する必要があります。さらに、正しいICTの知識・方法を学び、上手く付き合っていくこと、トラブルが起こっても回避できるスキル、自分で考えて行動できる実践力、困ったら相談できる行動力を身に付けさせることができる予防プログラムを充実させていくことが重要です。


*1)ICD-11:国際疾病分類の第11回改訂版
*2)DSM-5:精神障害の診断と統計マニュアル第5版
執筆者 木村佐枝子
副地域貢献センター長・健康プロデュース学部心身マネジメント学科 准教授
(専門は臨床心理学的地域援助)
静岡県青少年問題協議会会長

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