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Vol.5


新たな異世界へ向かって

新型コロナウイルスの世界的感染拡⼤が猛威を振るっています。2020年1 ⽉16 ⽇に「新型コロナウイルスを⽇本で初めて確認」と厚⽣労働省が発表してから、4ヶ⽉が経ちました。新型コロナウイルスは、約半⽉ごとに遺伝⼦変異し、2020年5 ⽉16 ⽇現在で17 種類が確認されています(⽇本経済新聞)。変異している同ウイルスの感染⾃体を防ぐことは⾮常に困難な事象と推察します。今後、我々の⽣活や考え⽅も新たなものになっていく可能性があります。同ウイルスの変異を認め、我々⼈間が極端な進化をしなければならい状況下にあるのかもしれません。

私は作曲家であり、⾳を使って美を表現する「⾳楽」という世界において“新しい”とは何かという問いかけを、作品を通して⾏っています。新しくあろうとすることは、挑戦であり、実験であり、またある⾯では、危険であり、失敗をも伴います。曲を創るときの作曲家、そしてそれを⾳に具現化して⾳楽を表現するときの演奏家は「ワクワク」しています。このワクワク感は、創っている⾳楽のエネルギーの根幹を成します。たとえその⾳楽が失敗に終わったとしても⾳楽の世界では「その後に消えてしまう」と⾔う悲しい報いに留まり、それが命に関わることはないでしょう。存在していたものが「無」になることほど悲しいことはありませんが。

このように“新しい”を研究している私が、現在の新型コロナウイルス禍との共存を考える時に「ワクワク」をなしにした“新しい”はあり得ません。同ウイルスが猛威を振るう以前と今、そしてこれからの未来を考えると、同ウイルスによって、不本意ながらも変わらなければならい事項や事象があったとしても、それは、以前より劣っている、不幸である、と⾔うことと同意ではないと期待します。新しいと⾔うことは、過去に無いことであり、それは進化していく現象であり、希望を伴う現象です。物事の価値観が変わる事とも⾔えます。

⾳楽の世界で⾔うと、調性⾳楽が主流であったヨーロッパの⾳楽が現代の⾳楽では無調⾳楽に発展しました。無調⾳楽を調性⾳楽と思いながら聴いたら「訳が分からない」と⾔う事になります。⾷事に例えると“おはぎ”だと信じて“未体験ハンバーグ”を⾷べた時の気持ちと似ているでしょう。

未知の世界への「ワクワク感」は「希望」であり、⾮常に⼤切です。新しいことは過去にはないので、例えば、10 ⼈中9 ⼈が「この物体は⽩」と⾔っている中「この物体は⾚」と発⾔する⾏為と似ています。とても勇気のいる⾏為です。「この物体は⾚」と答えるタイミングが後へくればくるほど勇気が必要になります。

新型コロナウイルスの感染拡⼤の猛威があり、5Gの導⼊が今後⾒込まれ、我々の⽣活も様変わりしていくでしょう。これは、ただ単に「変わる」と⾔った同次元での「変化」では無く、進化と⾔う「異次元による世界」「新たな観点が⽣んだ異世界」と想像できるのでは無いでしょうか。この「異世界」に突⼊するには、果敢な勇気と希望に満ちた思考が必要です。この勇気と希望を根底に置き、直⾯した事項に⽴ち向かう姿勢が⼤切だと考えます。⾳楽を創る時、最後の最後までどのようにしようかと迷い混迷に⾄り、最後の⼀歩で、前に踏み出します。この⼀歩は、偶然であったり、必然であったり様々です。そして、⼀つの新たな異世界が創られるのです。

パンドラの箱の最後の⼀つは「希望」です。それまでの「禍」を全て吹き⾶ばすのは希望です。教育は学⽣に⾃⼰の希望を語る⾏為だと私は思っています。東⽇本⼤震災時に「⾳楽を奏に」「応援をしに」現地へ⾏った⾳楽家が、「今はそれどころでは無い!今はそんな気持ちになれない!」と現地の⼈の怒りを⽣んでしまったと⾔う話も聞いています。現在では「YouTube」や「TikTok」などの楽しいサイトが様々な形態を介して⾳楽とともに嬉しさを与えてくれています。⼈間が300 年近くも共存を許してきた「クラシック⾳楽」、その中で抗う「現代⾳楽」、それとは違う抗い⽅の「ポピュラー⾳楽」、そして、「ドイツの⾳楽」「イタリアの⾳楽」「フランスの⾳楽」「アメリカの⾳楽」「⽇本の⾳楽」「⺠族⾳楽」など多様な⾳楽が私たちの興味をかき⽴てます。⼈間が⻑い間共存してきた「⾳楽」は“新しい”とは無縁ではありません。新しい作品がなくなると「進化・発展」では無く「伝承」となります。そしてそれは、世界が終わる事を意味します。

⾳楽と共⽣してきた我々の社会が終焉を迎えるとは考えられません。第⼆次世界⼤戦を彷彿とさせる禍「新型コロナウイルスとの戦い」、どうぞ皆様と共に乗り越えて⾏こうではありませんか。禍を機に転じる!「最後のお別れの時に会うことが許されない」と⾔うような⾮⼈道的な社会が続いてはなりません。

私が⾳楽から学んだことを基に現在の⼼境を書かせていただきました。⾳楽は⼼のビタミン!創作は挑戦!実験!勇気!希望!です。皆様と新しい社会を作りたく考えています。
最後になりましたが、新型コロナウイルス禍によって命を奪われた⽅のご冥福を⼼からお祈りいたします。医療従事者の⽅々へ⼼から感謝を申し上げます。
執筆者 塚本一実
短期大学部 音楽科 准教授
(専門は作曲)

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