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平岡 篤武 教授(教育学部 心理教育学科)

可視化されてきた、虐待によるダメージ
ネグレクトや被虐待の子どもたち及び家族に対する心理ケアと、虐待が及ぼす影響について研究をしています。虐待児に対する一般的な感覚として、「可哀相だから何かしてあげたい」というものがありますが、実際には事態はより切実であることが明らかになってきました。
その一つに、虐待を受けた子どもたちの脳において形態異常・機能異常が起きることがわかってきました。(図
その症状は「発達障害としてのトラウマ関連障害」と呼ばれ、健常児として生まれたにも関わらず、虐待によって従来の「発達障害」の基準に類似した症状を呈することを言います。

虐待を生き抜いた子どもに表れる行動の負の連鎖
虐待を受けている子どもは、無意識のうちに「恐怖」というストレスからまず身の安全を確保しようとします。それがうまくできないと、ストレスホルモンの過剰分泌により、本来は自然な防御反応である「闘争か、逃走か、凍りつくか(fight,flight,freeze)」の行動を繰り返してしまいます。そして、ストレスにより興奮した自律神経系がさまざまな症状・行動を誘発するという「悪循環のループ」から抜け出せなくなってしまいます。こうなると日常生活のちょっとした刺激でも“今の瞬間”をどう切り抜けられるかという危機的状況になってしまい、思いつくのは過去の悪い記憶ばかりで、現在をよく見て、考えて行動することが難しくなります。従って、虐待を受けた子どもへの支援は、記憶を過去-現在-未来に再構成できるような、環境を含めた生活全般を視野に入れた包括的なものである必要があります。

発達早期における「愛着形成」の重要性
被虐待児が示す症状・行動の悪循環の一番初めの原因として、長年欧米で注目されてきたのが「愛着形成」です。人を人たらしめるのは、可愛がってもらうことや周囲にいる人間を当てにするといった情緒的な結びつきであると言われています。重度に愛着形成につまずいている場合、大人でも社会生活が上手くいかないことが多いこともわかっています。愛着とは通常、普段の生活の中で獲得されていくものですから、「普通の生活を保障してあげること」が何より重要になります。

虐待を受けた子どもへの支援のポイント
こういった子どもたちへの具体的な支援の主要ポイントは、「愛着」「自己調節」「能力」の3つの段階に分けることができます。
まず、愛着形成に恵まれない養育環境により、“この世は危ない”という被害的な信念体系を作り上げてしまったことへの対応が必要です。次に、目の前の状況を(事実とは別に)危険と認知しやすいことから起きる自己調節機能の修正です。最後の段階では、不適応行動を克服するスキルや自信を増やしていきます。
これらが成立できて初めて、その子どもが本当に必要な個別の支援が可能になります。ですから、虐待からのトラウマを癒すには膨大な時間が必要であり、これはアイデンティティの再獲得作業とも言えるもので、決して容易なことではないことをわかった上で支援をする必要があります。(図

被支援者は「困った人」ではなく「困っている人」である
支援を必要とする人を「多様性」の中で捉える場合、重要なことは二つあります。一つは自分と他者を人としての共通項を持つ、ひとつながり(スペクトラム)の中に存在するものと認識すること。もう一つは、自分の考えや好みと違うから「異常だ」と捉えるのではなく、「(それなりの)事情があるのだろう」と理解することです。
つまり、問題行動を起こしやすいとされている虐待を受けた子どもは、「困った人」ではなく「困っている人」であると考えるところから、心理的ケアを始める必要があるということです。心理学を学ぶ学生には、講義や実習を通してより多くのケースにふれ、そういった考え方を学ぶことで多様性に対応する力をつけていってほしいです。