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学長室ブログ

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常葉大学・大学院 卒業式・修了式

各キャンパスで行われた卒業式・修了式
の学長式辞を紹介します。


 明峰・冨士がひときわ映える三月のこの日、ご来賓の臨席のもと、平成26年度常葉大学卒業式を挙行できますことに教職員一同大変嬉しく思っております。
 只今、学部卒業生および大学院修了生に卒業証書を授与いたしました。卒業生、修了生の皆さんに対して心よりお祝いを申し上げます。おめでとうございます。

 私は、本日、卒業される皆さんに、二つのお話をしたいと思います。最初の話題は、皆さんが卒業して直ちに活躍する地域社会に関する問題です。もうひとつは、今日、わが国に限らず広く世界の家庭で生じている問題です。
 まず、地域社会の問題です。本学が教育理念のひとつとして、「地域貢献」を掲げていることはご存知だと思います。この理由として5点ぐらいが挙げられます。学生の9割以上が静岡県内の高校出身者であること。卒業生の9割が静岡県内で就職していること。母体である常葉学園は地域と共に生き、地域に育てられてきた教育機関であること。そして、常葉大学は地域社会の将来に対して強い関心と責任感を抱いている等、です。

 ところで、皆さんは今、地域社会がどんな状態にあるかご存知でしょうか。静岡県が公表した「将来推計人口」をみると、30年後の2040年の県人口は68万人減って、308万になると予測しています。特に深刻なのは、この人口減少の原因にあります。県外流出人口は6,895人で、全国で最多い北海道の8、152人に次いで、全国第二位の多さです。私は、この数値をみた時、気候が温暖で製造品出荷額も多く、産業が盛んな静岡県から、この2年間で1万人以上が県外に流出していることが信じられませんでした。
 卒業生の皆さんも、常葉大学も、この現実問題を無視できないのです。なぜなら、人口規模は地域経済・社会にとって最も基礎的な条件をなすものだからです。皆さんが、会社員、公務員、あるいは自営業等、どのような職業に就くにしろ、人口が減れば、経済面・生活面で様々な影響が生じます。
 では、この厳しい地域問題にどう対処したらよいでしょうか。私は、この40年間、全国各地で「町おこし・村おこし」に取り組んできましたが、7割のプロジェクトは成功だと云えないと思っています。うまくいかない理由は、地域問題の現れ方が比較的緩慢であり、その上、様々な要因が複雑に絡み合っているため、問題が先送りされて手遅れになることが多いからです。要するに、地域問題は根が深く、解決に時間を要し、一筋縄では行かないのです。
 問題解決のポイントはこの問題を誰が担い、具体的にどう解決するかにあります。従来、この問題は地元市町村が担い、工場誘致合戦を繰り広げ、政府補助金の獲得に鎬(しのぎ)を削ってきました。ところが現在では、国債発行残高は1千兆円を越え、政府の財政資金が底を搗いています。誘致した工場も低賃金労働者を求めて海外に流出しています。その結果、地方から若者が消え、商店街も「シャッター通り」となっています。現在、政府は、「地方創生」を旗印に、地元市町村や地方大学との連携により総合的な解決策を模索しはじめました。
 地域問題解決のカギは「人」をどう確保するかにあります。いくら「金」を注ぎ込んでも、「人」がいなければ解決できないからです。かつて工場誘致や補助金獲得で、この問題を凌(しの)げたのは、その時点で、「人」が確保できていたからです。地域活性化に必要なのは、農林漁業を支えられる「農家」「漁家」の存在であり、中小企業を営める「経営者」の存在であり、消費活動を生み出す「一定数の住民」の存在なのです。これらの地域住民が自立的に活動すれば、小さくても雇用の場が生まれ、税収も増え、地域社会に見合った小さな工夫やイノベーションも生まれるのです。
 
 ここで本日、皆さんにお願いしたいのは、常葉の卒業生として、まず、自分が生きていく「足元」をしっかり見つめてほしいのです。次に、自ら率先して、この現実問題の解決に参加してほしいのです。一人の力には限界があるので、お互いが協力し合ってほしいのです。誰かがやるだろう、という受身に姿勢では、この問題は永久に解決できません。

学長賞の授与

 ここで、二番目の家庭の問題に移ります。私は21世紀に入る頃、「自分が生きた20世紀はどんな時代で、次の21世紀はどこに向かうのか」に大変興味がありました。そこで、内外の色々な文献や記事を読んでみました。その結果、2人の見解に非常に納得させられました。一人はイギリスの歴史家ホブズボームであり、もう一人はノーベル経済学賞を受賞したアマーテア・センでした。ここではホブズボームの見解のほんの一部を紹介します。
 ホブズボームは『20世紀の歴史―極端なる時代』という大作を書いています。その中で、「20世紀は世界的な無秩序の中で終った。ところがこのような危機をコントロールできる機構も見当たらない」という結論を導いています。
 そこで、第二の家庭の問題については、「家族間、男女間、世代間などあらゆる人間関係の急速な解体が、人類始まって以来の規模で発生している」と現状分析した上で、「私たちが過去の世代から受け継いできたものが腐食し人間社会の構造そのものが破壊されようとしている」と、過去との断絶が原因だと述べています。要するに、ホブズボームは、「社会の箍(たが)が緩み始めた」と云いたいのだと思いました。
 ところで、歴史家ホブズボームの著作は、多角的で、あらゆる分野を網羅しており、門外漢の私には簡単に紹介できません。そこで、今日の最も卑近な例を挙げて、家族関係の崩壊について私なりに私見を述べたいと思います。
今年の1月29日付け静岡新聞は、平成26年の「振り込め詐欺」「オレオレ詐欺」の被害額は、昨年より70億円増えて、559億円に達したと報じていました。また、被害者の78.8%は高齢者だとも書いていました。
 この犯罪は、高齢者の「子供の窮地を救おうとする親心」を言葉巧みに揺すり、時間的に精神的に追い込み、コツコツ貯めた預金を一瞬の内に騙し取るという、実に卑劣なものです。私は、この種の報道に初めて接した時、とっさにホブズボームの著作を想い出しました。この犯罪は家族関係の急速な解体と通信機器の目覚しい発達、そして爆発的な普及の間(はざま)で起きたものと感じたからです。急速な社会変化を悪用した社会現象であり、今後さらに拡大するのではないかと危惧しました。
 なぜなら、30年前には到底考えられなかった犯罪だからです。かつてのわが国では、自らの失敗や不祥事を解決するための大金を、電話一本で両親に依頼することはあり得ないことだったからです。本人自らが両親の元に出向き、自らの失態を詫びてお願いするのがごく普通の慣わしでした。もし被害者家族に家族間の信頼関係と密接な日常的交流があればと、誠に残念に思います。だからと言って、私は高齢者の迂闊さを責め、犯罪の原因を社会変化に転嫁しているのではありません。

 本日は、皆さんの、「大学卒業式」という記念すべき日です。ご家族にとっても、幼子から今日の晴れ姿まで、長いながい間、育(はぐく)んで来られた、大変めでたい日です。その意味で、二つの話題はあまりふさわしくないとも思いましたが、敢えてお話しいたしました。ひとつには、地域社会の未来を担う卒業生の皆さんに、まず足元の現実問題をしっかりと直視してほしかったこと。もうひとつは、現代の混沌として何が起こるか分からない世界の動きの中で、長期的かつ広い視野からものごとを判断して、よき人生とよき家庭を築いてほしかったこと、の二点に尽きます。最後に、ホブズボームの一文を送って、本日の式辞の結びとします。
 「もし人類にはっきりとした未来があるとすれば、それは過去や現在を先に引き伸ばしたものではあり得ないということである。」(下巻445頁)
健康に留意して、素晴らしい人生を築いて下さい。本日は大変おめでとうございます。

常葉大学学長 西頭 德三